柄杓 Hishaku

柄杓を知る

柄杓には様々な形があります。基本的には暖かな季節に使う風炉用と寒い時期に使う炉用のもの、差通しの三種類があり、その他流派によって約百二十もの種類があるといわれています。※上記写真左側、古いものは見本で、柄杓はお茶会・お茶事ごとに必要なものを都度都度作ります。

柄杓の形

各部の名称

炉用のものは風炉用より少し合が大きく、たっぷりと水を掬えるように作られています。

切止-きりどめ 炉と風炉

柄杓の切止は炉用は皮目を断ち落とし、風炉は身を断ち落とします。

柄杓の合の大きさ、柄の長さ、柄の形は流派によって様々です。

殆どの流派の風炉と炉の見分け方は共通していますが、遠州流だけは他流派と切止の向きが真逆と定められています。

合-ごう

月形の接合部
合を差通している

合の内側の柄の合口は、基本的なものとして月形と差通しの二種類があります。月形は、内側に差し込まれた柄の合口が三日月の様に見える事からこのように呼ばれます。このほか、珍しいものとしては、月形の先を引き伸ばし、刺し通しのように向かい側の側面まで突き抜けさせているような形のものもあります。

また、合は竹でできているのが普通ですが、秀吉の時代などでは、瓢箪を使い合に仕立てたものもありました。秀吉が瓢箪を好んだことに由来すると思われます。

合い口の形

銀杏形の合い口

千家は銀杏形で、武家茶道の合口の意匠は矢形であることが殆どです。

上記は千家の銀杏形で、合と柄の合口の形状が銀杏の葉の形をしていることから銀杏形と呼ばれます。

合は水切れが良いことが大事です

合(ごう)は標準的な寸法がそれぞれの流派によって定められています。当方では御流派によって定められた寸法を基本とし、お使いになる釜の口や水さしの寸法、茶碗の大きさを大まかにお伺いし、一点一点お作りしています。

柄杓の柄の形

柄杓の柄はおたふく状にして持ちやすく

当方では裏側の瓢形(ひさごがた)の部分は、おたふく状にふっくらと豊かな形に削ることで、引き柄杓をした際に持ちやすく手指の移動がすっといく様な加減を大切にしています。

柄は合口から節に向かって太くなり、切止に向かって次第に細くなるように作ります。藪内流は少し違って、中央の節から切止までズドンと太いままにお作りします。これは、藪内流の合が重いため、細身の柄では重さのバランスが悪く扱い難いことから、柄も太くしっかりとしたものにする必要があるというご流儀のお考えによって定められているためです。

茶家各ご流派の特徴

各流派のによって違う柄杓の形

千家

senke

風炉の合の高さは一寸六分〜一寸七分五厘程度が基準となっています。高さは内径に対して1分から2分程度を引いた寸法でバランスを取ります。合の内側は月形で、柄は瓢形で、断面はおたふく状に作ります。

織部流

Oribe

合は口に向かってややすぼまる太鼓形の胴で、底面から二分ほど面取りし、柄の合口は矢形。柄の形は柄の節に向かって膨らみ、切止に向かって細くなる瓢形で、断面はおたふく状に作ります。現代の織部流の柄杓はそういった形でお家元からご指導いただいています。

遠州流

Enshu

遠州流の柄杓の特徴は、風炉一寸九分〜二寸一分五厘程度、炉は二寸一分五厘〜二寸三分五厘程度となっており、たっぷりと大きめに作られることです。合との合口の銀杏形は、千家のものよりもV字の形が鋭く深めになります。また、大きめの合のため、柄とのバランスを取るために合の厚さは薄めに作ります。合に対して柄は細身です。遠州流の切止の約束は他のご流儀とは真逆になることも大きな特徴となっています。

宗徧流

Souhen

合は太鼓形で、首元から切止までを通して三角の柄で削られるのが大きな特徴です。節から切止までは同じ巾です。合の合口から切止までの両側の柄を三角に小刀で削り、同じ重さのバランスにするのは非常に難しい仕事です。

藪内流

Yabunouchi

藪内流は合が太鼓形で、太鼓の胴は千家の合よりも重くなるため、節から下をストレートの巾で切止まで削り、重さのバランスを取っているのが大きな特徴です。合口は矢形で、柄の裏はおたふく状です。武家茶道はほとんどが矢形です。矢形の角を綺麗にキリリと削り出すのは技術的に難しく、気の張る仕事です。

石州流

Sekishu

石州流の合は、千家の合よりも三分ほど引いた高さで、小ぶりの柄杓になり、合は太鼓胴になります。その結果、合は軽くなるため、柄も細めになり、全体的に華奢な印象の柄杓になります。柄と合の合口のデザインが矢形と定められています。

小川流・花月流

Ogawa/Kagetsu

小川流・花月流の柄杓は煎茶道具ですので小振りです。合の口を曲げ、急須に注ぎ易い様に作られているのが大きな特徴です。この柄杓の合は差通しで、外側に竹の栓をつけ、水を含んだ竹が円に戻ろうとするのを止め、楕円の形をキープできるようにしています。このように、小川流の柄杓は竹の性質を非常によく考慮した構造を持っています。他の煎茶のお家元でお使いになられる柄杓は、千家の柄杓を小振りにしたものが多く用いられています。

柄杓を作る

三原啓司

茶具になる竹を厳選する

合に使う竹は、伐り出して、湯で炊いて油抜きをし、一年か二年程度まで倉庫で寝かした竹を用います(あまり寝かしすぎると茶色く変色してしまいます)。柄に関しては、三年から五年程度寝かした竹を用います。

伐り出したばかりの近隣の真竹

柄杓の材になる竹は高山地元のもののほか、京銘竹を扱う京都の三木竹材店、四国の穴吹竹材店などから厳選した竹を使います。伐り出した青竹は一ヶ月〜二ヶ月程度置いて水分を抜いた後に油抜きし、天日干ししたあと、一年〜三年程度寝かします。その後、二寸五分くらいの大きさにカットして使用する直前まで寝かしておきます。

柄杓の製作手順

寝かしておいた竹の中から、ご注文の各流儀の形にあった合の生地の大きさを選び、合の側面になる部分の竹の皮目を鉈ではつり、重さを調節します。次に鋸で底の立ち上がりを薄くなるよう落としていきます。さらに側面を削ります。合の重心がずれないよう、左右バランスよく同じ厚みになるように、小刀等で薄く削り込みます。その後、柄をつけた後、小刀等で削り込んで仕上げます。

合と柄の接合部は、柄杓作りの中で一番大切で難しいところで、化学糊などを使わずに、接合部から水漏れが無いようにぴったりと作ります。必要十分なものができる様になるには十年以上かかるといわれています。

柄杓製作の難しいところ

合の作り

合と柄の接合部は、柄杓作りの中で一番大切で難しいところで、化学糊などを使わずに、接合部から水漏れが無いようにぴったりと作ります。

柄を削り出す際、柄の端から一息に削り上げてこの形を作るため失敗が許されず、最も気の張る箇所です。機能と使いやすさ、美しさを備えた必要十分なものができる様になるには十年以上かかります。

柄杓を作るにあたっては、釜から柄杓で湯を汲んで茶碗に移す際、一、二の呼吸で柄杓の合から水が切れることを念頭に製作します。

水切を良くするために、側面の竹の繊維が真っ直ぐになる様、癖のない竹を特に用意して作ります。大量に量産された品は寸胴にできていますが、当方では一点一点、緩やかなカーブを持たせるように削り出し、水切れの良いようにお作りするのを最も大切にしています。そうすることでお客様の畳や、お道具、お着物を守る様にということを念頭にお作りしています。

柄杓の柄に差込口を削る(1)
柄杓の柄を削る(2)

おたふく状の柄

柄は合口から節に向かって太くなり、切止に向かって次第に細くなるように作りますが、当方では柄を瓢形(ひさごがた)・おたふく状に成形しています。裏側に丸みを持たせることで持った時に扱いやすく、柄杓の所作が行いやすいようになると考えられています。そのため、当方では工数が多くなることを厭わず時間をかけて丁寧に削り出しています。

柄杓の柄の角度

また、鏡柄杓をした際に、自身を写す角度が適切である様に、武家茶道の中で小脇に構えた折に合がお相手の方を写す様な角度になる様にと、お客様のご体格やご使用になる場をお伺いして微調整し、美しい所作の妨げにならない様にお作りするよう心がけています。

そうして柄と合の角度などを調整することで釜の口に落ちてしまう事のない様に、三点でピタッと釜の口に落ち着くような柄杓になるよう、何よりもお客様の使い勝手の良くなるようにということを心がけて製作しています。

一番難しいのは左右のバランスで、この重さのバランスが崩れると釜の上で傾いたり、柄杓立ての中でコロンと転げてしまいますので、柄杓の製作は気の張る仕事です。

柄杓ご注文

柄杓のご注文

当方では伝統を重んじ、伝統の形に従い、どれも使いやすい角度、寸法で仕上げ、どのようなお席でも滞りなくお点前をしていただけるよう、心を配ってお作りしています。無駄のない作りの道具が、席主様の美しい所作をお支えします。特に気の張るお席などでは、フルオーダーをお試しくださいませ。

柄杓の問題

水を掬ったおりに、合と柄の間から水漏れする。水キレが悪い。合がお点前の最中にぽろっと取れる… 柄杓を構えた時の柄杓の立ち上がりの角度が悪く、鏡柄杓にならない。湯を掬ったおりに、角度が思わしくなく十分な量がすくえない。台子などを使うお点前の際、台子の底につかえてスムースにお点前が進まない。といった問題をよくお聞きします。

当方ではどのお品物も、基本は水漏れがなく、釜の口からすくいあげてお茶碗までの移動の間に水が落ちない、といった条件をクリアしています。また、釜から落ちる、安定しない、という問題が起きないよう細心の注意を払ってお作りしています。

フルオーダー

20,000円

釜の大きさ、使う場所、使う方のご体格、手の大きさ、手の長さなど様々な条件をお聞かせいただいて、決められた寸法でありながら、様々な条件の中で最高のお点前に繋がるようなお柄杓をお作りします。得に厳選した材料を用いて制作いたしますので、視覚的にもご満足いただけるかと思います。どのようなオーダーにもお応えいたします。

フルオーダー(赤印)

定型・平均的な形

10,000円

千家様の御用に見合うお品物を決められた寸法でご用意しております。お稽古用、気軽なお席にどうぞお使いくださいませ。

※他のご流派様で特殊なお品は二割増し料金で承ります。

一般的な柄杓(黒印)
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